研究課題
本年度の研究実施計画では、これまでの調査によって収集し得た識字資料を基本的に用いながら、研究メンバー各自の具体的な研究課題をより精緻化し、個別研究を深めることを主眼としていた。このため研究会での活動を軸とすることとした。都合4回の研究会を開催し、メンバー全員が研究報告を行うことにより、個々の研究主題がより明確になりつつあることから、本年度の課題をほぼ達成したといえる。研究会で報告された成果は以下の通り。1、「葛川明王院史料」にみられる民衆層の花押・略押の成立状況を分析することから、中世末期・近世初頭の近江地方民衆の識字状況に迫ろうとした。2、会津地方の近世町屋の商人層に広がる識字状況および識字力を基盤とした学習状況の提示を試みた。3、幕末維新期の武州農村に生じた村方騒動の推移から、小前百姓層の識字状況を推定した。4、11世紀から13世紀にかけての参議の記録担当能力の変化の過程の検討から、貴族社会におけるリテラシーの変化を推定した。5、17世紀前期の越前国今立郡岩本村に残存している百姓自署史料のなかの花押・略押を時系列的に分析し、同村の識字状況を推定した。6、前近代の識字率を推定する際の方法論的検討を、「識字」の概念規定、文献史料からの推定、寺子屋への就学率からの推定、署名による識字率の推定の四つの観点から行い、限定された地域内での分析・検討に今後の研究可能性を見出した。以上の成果とは別に、海外での研究発表として、韓国教育史学会およびソウル大学からの招聘を受けて、光州教育大学で開催された同学会2009年度秋季学術大会において、日本の伝統社会における仏教の展開が武士・農民層の識字力形成に果たした役割について、研究代表の大戸が報告を行った。このことにより、韓国の識字研究者との連携の可能性も高まり、今後の海外の識字研究者との交流も拡大する見通しとなった。
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教育学研究紀要 55巻
和光大学現代人間学部『現代人間学部紀要』 第3号
ページ: 17-26
筑紫女学園大学・短期大学部人間文化研究所年報 第20号
ページ: 81-94