最近の発達障害研究では、発達障害児への不適切な対応や放置の結果、しばしば不登校、ひきこもり、精神神経的症状(無気力、抑鬱、統合失調症様状態、解離性障害、強迫性障害)、いじめ・被虐待、暴力的噴出、非行・触法行為などの「二次症状」を引き起こし、とりわけ思春期、青年期以降、事態が深刻化することがあることが指摘され始めている。しかし高校段階における「学校不適応」の実態に焦点化した実証的研究はほとんど未着手の状況にある。それゆえに本研究では埼玉県内の高校の養護教諭を対象に軽度の発達障害生徒の学校不適応の実態調査を実施し、彼らの困難・ニーズと学校の対応の実態および当面する課題を明らかにした。調査方法は質問紙調査票を作成し、それを埼玉県内の全国公私立高校245校(国公立全日制158校、私立全日制47校、定時制・通信制40校)の養護教諭に郵送して実施した。調査期間は2006年6月1日〜8月1日、102校(公立全日制63校、私立全日制23校、定時制・通信制15校、不明1校)から回答があり、回収率は41.6%であった。 調査を通して把握できた高校における軽度の発達障害生徒の学校不適応への対応の課題は以下のとおりである。 第一に、高校における軽度の発達障害生徒が有する各種の困難・ニーズについての把握と対応はほとんど未着手ということである。実態把握は高校によって大きな差がみられたが、この課題に取り組んでいるのは定員割れをおこしている、あるいは「教育困難校」と呼ばれる一部の公立高校・私立高校であり、いわゆる「進学校」の高校からの不適応事例の送付はごく僅かであった。 第二に、「以前に勤務していた学校はいわゆる『困難校』といわれるところで、今思うとLDやADHDの生徒が大勢いたのではないか。しかし私も含めて全く理解がなかったので謹慎等の処分を受けることが多々あった」という養護教諭の記述にもみられるように、非行・問題行動等と発達障害との関連について検討されることもなく、生活指導上の処分対象となり、結果として中途退学となった事例も少なくないと推定される。義務教育段階で63%ともいわれる出現率の高さを考慮するならば、高校の生活指導においても発達障害の理解と対応が不可欠である。 第三に、今後必要とされる支援として外部専門機関との連携・協働、教職員研修や校内支援体制の確立が挙げられたが、養護学校(特別支援学校)からの支援を求めた回答は皆無であった。このことは発達障害生徒への対応は養護学校の課題ではなく、通常の高校教育の課題として回答者がとらえていることの反映とも考えられる。それは高校に潜在的に在学する対象者の多さから推定して、まさにその通りであると判断する。二次症状を起こしている事例が多いことや社会への移行が目前にせまっていることを考慮するならば、高校段階における発達障害を含めた多様な困難・ニーズを有する生徒への特別支援教育の保障は、緊急そして不可欠の課題である。
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