1)6歳から15歳までの高機能広汎性発達障害事例23名とその母親や教師など25名の大人による1対1の会話のビデオ記録について、大人が崩壊を指摘した箇所を分析し、そこに含まれる語用障害を記述・分類した。見出された32の語用障害は17種類に分類され、うち6種類が複数事例にわたって認められた。4事例以上で認められたのは、疑問詞質問への無応答、相手の発話の先行会話の文脈への関連付けの失敗、過剰に特殊な対象指示、及びFTA (Face Threatening Act)の4種であった。先行研究が示した約50種類の語用障害のうち本研究で見出されなかったもののほとんどは、より年長の事例で見出されるもの、観察した場面で伝達的な必要性がないもの、大人が意識化するのが困難なもの、会話に顕著な支障をきたさないもののどれかであった。 2)高機能自閉症の2名の男児の意図を大人が理解できなかったプロセスを検討した。大人は意図の明確化を誘発するために質問を用いた。それぞれの子どもの応答をビデオテープの微視的分析によりコマごとに吟味した。大人の理解の失敗の2つの原因は、聞き手を戸惑わせる定式的な言葉遣いと聞き手からはずれた視線であった。疑問文を用いた質問は子どもの意図の明確化に失敗したが、はい・いいえ質問は意図の明確化に適していた。しかし、意図明確化の成功・失敗は質問の形式にのみ基づくものではなく、質問内容の違いが関連していた。はい・いいえ質問は主に、特定の行為をたずね、疑問文質問は認知的な事柄を扱うために用いられた。後者による明確化の失敗は、前者によって補償されていた。
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