研究概要 |
本年度は,高次元類体論の高次化についての成果が挙がったのでこれについて解説する. 古典的な類体論とは代数体あるいは有限体上の一変数関数体$K$の最大アーベル拡大のガロア群を$K$のイデール類群を用いて統制する理論である.高次元類体論はこれを幾何学的に高次元化した理論である.1980年代後半に本研究者と加藤和也氏が代数的$K$-理論を用いて完成させた.その内容を簡単に述べるなら,整数環上の有限型スキーム$U$にたいし,$\pi_1^{ab}(U)$($U$の代数的基本群のアーベル化,$U$の有限エタール被覆を統制するガロア群のアーベル化)を代数的$K$-理論を用いて定義した高次元イデール類群により統制する理論である.最近になって高次元類体論をモチフィックコホモロジーの理論の枠組みで再構成する動きが始まっている.モチフイックコホモロジーとは,代数体の整数環のイデアル類群や単数群,スキームのChow群などを一般化したもで「普遍的なコホモロジー理論」であると考えられている.また数論的多様体の$L-$関数とも密接に関連する重要研究対象である.本年度の研究成果として、有限体$F$上の滑らかな多様体$U$と$\ch(F)$と互いに素な自然数$n$にたいし自然な同型 H^S_i(U,Z/nZ) \simeq H^{2d-i}_c(U_{et},Z/nZ(d)) を示したことである.ここで右辺は$U$のコンパクトな台をもつエタールコホモロジーで,左辺は$U$のSuslinホモロジーで,$U$のモチフィックホモロジーの一種である.自然な同型 \pi_1^{ab{(U)/n \simeq H^{2d}_c(U_{et},Z/nZ(d)) が成り立つことから,定理の$i=0$の特別な場合は$U$の類体論を与えている.この意味で定理は高次元類体論の高次化とみることができる.
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