研究概要 |
本研究の目的は,量子推定理論や量子情報理論の諸問題におけるこれまでの研究成果を統合・発展させ,非可換統計学における量子情報幾何学的方法の確立を目指すことにある.本年度は以下のような研究を行った. Hilbert空間H上の状態空間S(H)に埋め込まれた滑らかな多様体を量子統計的モデルという.本研究では,多様体の座標(パラメータ)の推定問題を測定空間上の凸計画問題として定式化し,その最適解を数値的に求めるアルゴリズムを情報幾何学的観点から研究することを通じて,測定空間に誘導される自然な幾何構造を研究することを唱指した.まず,数値計算を行う上で計算時間を大きく左右する最適測定の台のサイズの上界を改めて検討し,Hilbert空間Hおよびパラメータの次元を用いて評価しなおした.次に,目的関数である分散・共分散行列の(重み付き)トレースが測定空間上の線形汎関数であることに着目し,古典的クラメール・ラオ不等式の下界達成条件と組み合わせ,目的関数の局所最小値を与える局所不偏測定に漸近的に収束するアルゴリズムを提案した.さらに,このアルゴリズムの適用例としてスピン1/2系における「縦/横」緩和時間(非可換パラメータ)の同時推定問題を研究し,最適解がランダム測定のクラスから大きくずれた集合上に存在することを明らかにした.これは,従来の非可換統計学における測定の標準的構成方法であったランダム測定の方法では不十分であることを初めて具体的に見いだした画期的な成果である.今後この計算方法に改良を加え,具体的計算例を蓄積すると共に,測定空間に誘導される情報幾何構造を明らかにしていく.
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