偶数次元の共形構造に付随するアンビエント計量の構成に関しては、昨年度完成したと思っていた解法に障害があることに気づき解法の修復を行った。幸運なことに、考える解の特異性を強めることにより、この障害は容易に回避できることが明らかになった。これと同時に、アンビエント計量の曲率と共形構造の曲率の対応を与える、ジェット同型定理を証明した。この定理は局所共形不変量の構成問題に応用が可能であり、例えば、全ての局所共形不変量の曲率の完全縮約としての表示が得られる。この研究はワシントン大学のRobin Graham教授との共同研究であり、ミネソタ大学で行われたワークショップの期間中に研究打ち合わせを行い、研究成果を発表した。その講義録として主要結果をアナウンスする予定である。細かな証明には冗長な部分があるため、出版に向けて整理を進めている。 CR幾何においては、セゲー核の漸近展開に現れる局所不変量をアンビエント計量を用いた表示を試みた。セゲー核はレビ計量に依存して決定されるため、CR構造以上に詳しい情報が含まれている。この追加情報はレビ計量が定める田中・リッチ曲率にのみ依存することを示し、田中・リッチ曲率のアンビエント空間へのリフトとアンビエント計量の接続をもちいてセゲー核が記述可能であることを示した。この新しい記述方法はCR幾何に付随するBernstein-Gelfand-Gelfand複体の局所コホモロジー加群の上の不変式の記述と対応しており、これまで知られていたCR構造の変形複体の局所コホモロジーの理論の一般化とみなすことができる。
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