CR構造でのQ-曲率の一般化とCR不変微分作用素の解析への応用を念頭にいれて、サブラプラシアンの冪を主要部とするCR不変微分作用素の分解を試みた。これは高階の不変微分作用素を低階の単純な不変微分作用素と高階の準楕円形作用素の合成に分解することにより複雑な高階の作用素の解析を低階の場合に帰着させるものである。共形幾何での類似の分解からQ-曲率の作用素としての一般化が得られており、CR幾何でもQ-曲率との関連性が期待できる。本年度はトラクター計算法を用いた分解を導出することに成功した;準楕円性の証明も部分的にはえられている。ここに現れる低階の不変微分作用素はBernstein-Gelfand-Gelfand複体の最初の二つの作用素の合成として与えられるものである;BGG複体の幾何への応用の新しい視点を与えるものであると言える。また準楕円性の証明が完成すれば高階の不変微分作用素のゼータ関数の定義が可能になり、波及効果も高いと思われる。 一方、Robin Graham教授と共同で進めている偶数次元の共形構造に付随するアンビエント計量の理論では、スカラー共形不変量の構成において大きな進展があった。主要な結果として、次数2のスカラー値局所共形不変量は各ウエイトにただ一つ存在することを示し、その具体的な表示をアンビエント計量の曲率をもちいて与えた。これにより9次元以下の共形構造のスカラー不変量がすべて決定されたことになる。先行する結果としてはRod Goverによるトラクター計算を用いた構成があるが、2次の不変量を扱うことはできず、また代数処理の煩雑さにより、具体的な計算への応用は困難であった。我々の得た表示は簡潔であり、Goverの結果を補完するものである。
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