研究概要 |
本研究は力学系のエルゴード的性質の研究に関数解析的な方法を応用するというものである.初年度である本年度はこれまで得られていた離散力学系についての結果をまとめて公開するとともに,より本質的な困難を伴う連続力学系の場合にその結果がどのように拡張されるかを考察した.離散力学系についてはこれまでBaladi(CNRS, France)と共同研究を進めてきたが,その結果を論文「Dynamical determinants and spectrum for hyperbolic diffeomorphisms」(preprint, Math.ArXiv DS/0606434)としてまとめた.主な結果はアノソフ微分同相写像のような一様双曲的な離散力学系について,引き戻し作用素またはその双対であるペロン・フロベニウス作用素の非等方的ヘルダー・ソボレフ空間と呼ばれる関数空間への作用を考察し,その本質的スペクトル半径について写像の微分可能性と双曲性の強さによる精密な評価を与えるものである.さらにこの評価から力学系のルエル・ゼータ関数の有理型関数としての拡張についての良い評価を得た.これらは解析的なアノソフ写像についてRughやFriedによって得られていた結果の拡張になっている.一方,連続力学系についてはアノソフ流について直接考察することは難しいことから,まずアノソフ流の単純化されたモデルとしてこれまでも研究されてきた円周上の拡大写像の懸垂半流について考察して次のような結果を得た:ある非等方的ソボレフ空間についてその上のペロン・フロベニウス半群の生成作用素の本質的スペクトルは実部が最小拡大率の対数の半分以下になるような左半空間に含まれる.また流れのゼータ関数は実部が最大拡大率の対数の半分以上になる右半空間に有理型に拡張できる.これらの結果は既にプレプリントとして公表した. また,今後の研究の基盤とするため計算機の環境を整え,力学系研究集会(2006年度1月6日-9日,東京大学)を開催し力学系の研究の交流を図った.
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