研究概要 |
原子核実験用固体水素標的の実用化のための開発研究をKEKと各大学等との協力で行っている。我々は固体水素を「窓なし、薄膜、吹きつけ」の3種類の方法により製作し、実際の物理実験に即した実用機を研究・開発する事を目指している。 この研究を開始する以前は固体水素標的の厚さは3~10mmの範囲しか製作できなかったが、今回の研究開発の結果、直径50mm、長さ100mmの大きなサイズの固体水素標的が製作可能になった。今回この大きさの固体水素標的が初めて実用化できたため、J-PARC等での中・高エネルギーの原子核実験にも固体水素標的が使用できるようになった。 この固体水素標的を用いた最初の原子核実験を理研Big-RIPSで行った。その結果、極めて安定したオペレーションと断面積測定実験ができた。さらに第2回目の原子核実験を理研RIPSで行い、今回も安定して物理データの取得ができた。この実験データは現在解析中である。 さらに、低エネルギー原子核実験にとって重要な厚さ1mm以下の窓なし固体水素ターゲットの開発を行った。これは小型冷凍機を用いた水素ガス吹きつけ方式の固体水素標的である。小型冷凍機で4K以下まで冷却された厚さ0.03mm、直径5mmの純銀フォイル上に厚さ0.35mmの固体水素ターゲットを作成することに成功した。 この装置は現在もTRIUMF(Vancouver, Canada)での原子核実験に向けて開発を継続している。今後、固体水素の蒸発速度測定などの詳しい性能試験を行う予定である。さらに散乱実験のバックブラウンドレベルを下げるために、純銀フォイルの厚さを3~5ミクロンの極限まで薄くすること、輻射シールドの開口部を大きくし、散乱粒子検出器への立体角を大きくするなどの開発を行う予定である。来年(2011年)には今回開発した固体水素標的を用いてTRIUMFにてビーム実験を計画している。
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