研究課題
本研究計画は、格子ゲージ理論のなかでも厳密なカイラル対称性をもつ定式化を用いて量子色力学(QCD)の大規模シミュレーションを実行し、カイラル極限での信頼できる計算結果を得ることを目指すものである。厳密なカイラル対称性をもつ格子上のフェルミオン定式化はオーバーラップフェルミオンと呼ばれる。シミュレーションの第一段階として、格子上の定式化の詳細を確定する必要がある。オーバーラップフェルミオンはゲージ場のトポロジーを正確に反映するため、ゲージ場の異なるトポロジーセクターの境界では不連続な関数となる。格子理論に特有なこの問題を避けるために、ゲージ場の作用に新たな非物理的なフェルミオン自由度を加えてトポロジーの境界に近づかないようにする手法を提案した。次に、最初の大規模シミュレーションとして、アップおよびダウンクォークの真空偏極の効果を取り入れたシミュレーションを実行した。格子間隔として0.12fm程度、クォーク質量としてはストレンジクォーク質量の1/6までの軽い領域をカバーした。格子体積は16^3x32で、物理的には一辺が1.9fm程度の領域に相当する。このシミュレーションでは、クォーク質量一点につき1000個という高統計なゲージ場サンプルを生成した。パイ中間子の質量と崩壊定数に関するデータ解析は現在も進行中である。また、その他の物理量の計算も進めている。この大規模シミュレーションに加えて、クォーク質量が極端に小さい、いわゆるイプシロン領域でのQCDシミュレーションも実行した。この計算結果をカイラル摂動論の予言とつきあわせることで、いくつかの低エネルギー定数を決定することができる。このデータ解析も現在進めているところである。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
Physical Review D 74
ページ: 094505