研究概要 |
量子情報通信では,異なる量子ビット間での量子状態の転写は欠くことのできない技術である。したがって本研究では,光子から量子ドット中の電子スピンへのコヒーレントな量子状態転写を目指している。今年度,量子ポイントコンタクト(QPC)を有する量子ドット(QD)を使って,単一光子が生成し量子ドットに束縛された単一電子の検出に成功し,単一光子から電子スピン制御可能な横型量子ドット中の単一電子への変換が可能であることを実証した。 試料はGaAs/GaAlAsヘテロ構造上に作成した横型量子ドットに,電荷読出用のQPCと微小開口を有する遮光マスクを備えたものである。この試料に微弱光(780nm)を照射し,QPCの電流変化により単一光子が生成する単一電子の検出を試みた。光源には半導体パルスレーザを用い,光強度はQDに対する平均光子数が1光子/1パルス以下となるよう調整した。電荷検出の実時間測定と単発パルス光照射を繰返し行なうと,パルス光照射時刻にちょうどQPC電流に単一電子の電荷検出を示す信号が約5%の確率で観測された。照射光強度依存性と量子ドットのトンネルレート依存性から,この信号は単一光子によって生成された単一電子がQDに捕捉され離脱してゆく過程を実時間検出したものであることが確認できた。このとき時間分解能は50micros程度で,典型的なスピン緩和時間T1よりも十分早く検出できている点が重要である。 研究分担者である樽茶教授らは人工原子として電子状態の制御性が高い縦型量子ドットの直下に量子ポイントコンタクトを作りこんだ構造を作成し,縦型量子ドットでの電荷検出に成功した。この成果は縦型量子ドットが今後量子情報処理技術において有用となるだけでなく,本研究の量子状態転写においても単光子の検出や電子スピン検出など横型と同様に量子状態転写の研究を行なうことが出来る可能性が示された
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