本研究では、1次元電子系の候補物質としてカーボンナノチューブをとりあげ、その基底状態、光励起状態のダイナミクスを、低エネルギーmeV、即ちテラヘルツ(THz)周波数領域の電磁応答から調べることを目的としている。本年度は、カーボンナノチューブ間の接触の影響を除去するためにポリマー薄膜中に分散したカーボンナノチューブ試料を対象とし、基底状態における誘電率スペクトル、伝導度スペクトルを広範囲に亘って計測することを主眼とした。このために、パルス幅14フェムト秒のモード同期レーザーを用いた広帯域テラヘルツ分光システムを構築し、0.2-20THz(0.8-80meV)までの誘電率スペクトルを計測することが可能となった。HiPco法で合成された単層カーボンナノチューブ(SWNT)を分散したポリマー複合膜の実効誘電率を計測した結果、複合膜の誘電率実部は、低周波(2THz以下)の領域で正に大きな値を示すことを見出した。さらに実験結果から有効媒質理論を用いてカーボンナノチューブの平均複素誘電率、伝導度スペクトルを導出した。その結果、伝導度スペクトルは3THz近傍にピークを持ち、複素誘電率スペクトルはオーバーダンプしたローレンツ振動子モデルでよく再現できることがわかった。低周波領域の巨大誘電率の起源も、同様にこの3THzに共鳴を持つローレンツモデルで説明されることも示された。ナノチューブの曲率を考慮したバンド計算の結果との比較から、観測された誘電応答はスモールギャップSWNTの応答を示唆するものと解釈された。
|