研究概要 |
光合成細菌の光合成系は,超高速(100フェムト秒以下)かつ高効率(~100%)な光エネルギー変換機構を有するバイオナノデバイスである.太陽光エネルギーの有効利用という点から鑑みると,その機構を解明することは次世代のクリーンエネルギー変換器の基盤技術となることが期待される. 前年度の研究において,サブ20フェムト秒光源を用いた過渡的な誘導フォトンエコー(SPE)信号に,コヒーレント分子振動の結合モードが顕著に表れるという非常に興味深い現象を見出した.このことはすなわち,簡単な実験配置にて,振動状態のコヒーレント制御が達成されたことを意味する.昨年度の実験で用いた試料は,代表的な光合成色素であるβ-カロテンであったが,「この現象が他のカロテノイドでも同様に見られるのか?」という問題を,本年度は最初に検証した.紅色光合成細菌Rba.sphaeroides 2.4.1から抽出したスフェロイデンを用いてSPE信号測定を行ったところ,やはり,コヒーレント振動の結合モードが非常に明瞭に現れることが分かり,この現象がカロテノイド一般に起こることが明らかになった.この興味深い現象の起源として,(1) 光励起に伴う構造変化,(2) 電子状態間のカップリングに伴う非線形な振電相互作用,の2つの可能性が考えられる.そのため本年は更に,これらのモデルの妥当性を明らかにするために,Rba.sphaeroides 2.4.1の光合成膜を用いて,SPE信号測定を行った.その結果,光合成膜を用いて測定したSPE信号においても,結合モードが非常に顕著に現れることが分かった.光合成膜中において,カロテノイドは周辺蛋白質に取り囲まれているために,構造変化を行うための自由度を持つことが殆ど不可能である,そのため,今回観測された現象は,電子状態問のカップリングに起因するという結論に至った.以上得られた成果を,学術論文として投稿するための準備を,現在行っている.
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