これまで、高温超伝導は母物質絶縁体に正孔または電子のいずれかをドープすることにより発現すると考えられてきた。電子・正孔ドーピングいずれによってもT_c〜30-40Kの超伝導が発現することから、高温超伝導に対する「正孔・電子対称性」が主張されている。「正孔・電子対称性」は、現在広く受け入れられている「高温超伝導体をドープしたモット・ハバード絶縁体」とみなす描像を強く支持する現象と考えられている。 本来、「正孔・電子対称性」の厳密な検証には、同一結晶構造への正孔及び電子ドーピングが比べられるべきであるが、バルク合成ではそのような試みができない。バルク合成では、正孔ドーピングは六配位及び五配位銅酸化物でのみ、電子ドーピングは四配位銅酸化物でのみ可能である。一方、我々は、分子線エピタキシー(MBE)法を用いた低温合成においては、六配位銅酸化物への電子ドーピングや平面四配位銅酸化物への正孔ドーピングなどがある程度自由に行えること見出している。本研究は、同一結晶構造への正孔及び電子ドーピングを行い、四配位、五配位、六配位銅酸化物のすべてに対して、高温超伝導の「正孔・電子対称性」の成否を厳密に検証することを目的とする。平成18年度は六配位銅酸化物に着目して研究を進め、バルク合成では不可能なK_2NiF_4構造(略称T構造)のLa_2CuO_4への電子ドープ(Ce^<4+>ドープ)を実現した。T-La_2CuO_4は電子ドーピングによって導電化傾向を示さず、逆に絶縁化することを見出した。従来、T-La_2CuO_4はモット・ハバード絶縁体と信じられてきたから、正孔ドーピング、電子ドーピングを問わず、Cuの価数が+2からずれると導電化するはずであるが、実験結果は、この予想に反し、正孔ドープで導電化・超伝導化、電子ドープで絶縁化と正孔・電子対称性が破れていること示す。
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