研究概要 |
本研究の目的は、スピンアイスの「残留エントロピー状態」の本性を明確にするため、1Kより十分低温までのDy_2Ti_2O_7とHo_2Ti_2O_7の磁気緩和を定量化・比較し、その機構を理解することにある。本年度は主に装置の整備と新しい研究に向けての基礎実験を行った。47Tiを濃縮した高純度TiO_2を原料に用いたDy_2Ti_2O_7の単結晶の育成にも成功し、研究協力者の北川健太郎(学振特別研究員)を中心にした核磁気共鳴(NMR)によりOおよびTiのNMR信号の観測に成功し、低温での磁気緩和のミクロな機構を研究する準備が整った。これまでの成果は2006年秋の日本物理学会でも報告した。 また磁気誘電応答の測定により、外部磁場でスピンを揃えた状態から消磁した後の磁気緩和を200mK程度の低温まで定量的に明らかにするためのクライオスタットの整備を行った。勾配磁場付き垂直磁場型超伝導マグネットを用いて、キャパシタンス極板に工夫を凝らすことにより磁気緩和測定を可能とする。そのためのファラデー法キャパシタンス磁力計の開発を継続する。 関連のパイロクロア酸化物Pr_2Ir_2O_7に関しては、大きな研究展開があった。すなわち、金属でスピンアイス状態が実現していることを見出した。これまで単結晶育成に成功し、磁化曲線の異方性からPr_3+イオンの結晶場基底準位がイジング性を満たすことを見出し、共同研究のBroholm教授(Johns Hopkins University, USA)らによる中性子散乱実験からも確認できた。この物質は1.7K以下の低温で、スピンアイスの条件を満たすことが示唆され、金属性をいかしたホール効果の測定から、外部磁場に比例しない異常ホール効果の成分が大きく、なおかつそれが従来から知られているスピン・軌道相互作用ではなく、スピンカイラリティー機構によって説明できることが明らかになりつつある。 磁気緩和機構の理論的理解を目指して、海外共同研究者のMichel Gingras教授(Univ.Waterloo, Canada)とは、スピンアイスについてはもちろん、関連水酸化物でのHoスピンの量子的振る舞いについても、理論・実験の密着した共同研究を展開した。
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