研究課題
本研究の目的は、スピンアイスの「残留エントロピー状態」の本性を明確にするため、純良単結晶を用いて1Kより十分低温までのDy2Ti207とHo2Ti207の磁気緩和を定量化・比較し、その機構を理解することにある。両物質の単結晶を用いてSPring8のBaron博士のグループとの共同実験を行い、Dy原子核からの共鳴シンクロトロン輻射により、室温から8Kまでのスピンダイナミックスの観測に成功した。電子と原子核の相互作用による超微細相互作用磁場の測定から、スピン緩和がエネルギーギャップ272Kの熱励起型になることを明らかにした。緩和時間はHo2Ti207スピンアイスの3倍程度と長く、両物質での最近接交換相互作用の大きさの違いを反映している。この成果は論文発表した。同位元素47Tiを含むDy2Ti207の単結晶を用いて、研究協力者の北川健太郎(学振特別研究員)を中心にした核四重極共鳴(NQR)実験が進展した。共鳴周波数の温度依存の原因がDyの4f電子の電気四重極モーメントの変化によることを見出し、磁気モーメントの揺らぎには、スピン間相互作用と電気四重極間相互作用が同程度に重要であることを明らかにした。関連のパイロクロア酸化物金属Pr2Ir207に関して、スピンアイスの条件を満たすことが示唆され、外部磁場に比例しない異常ホール効果の寄与が大きく、なおかつそれが通常のスピン・軌道相互作用ではなく、スピンカイラリティー機構によって説明できることを論文発表した。磁気緩和機構の理論的理解を目指して、海外共同研究者のMichel Gingras教授(Univ. Waterloo, Canada)とは、スピンアイスについてはもちろん、関連水酸化物でのHoスピンの量子的振る舞いについても、理論・実験の密着した共同研究を継続している。
すべて 2008 2007
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)
Physycal Review B 77(5)
ページ: 054429-1-13
Physycal Review B 75
ページ: 140402-1-4
Materials Research Bulletin 42(5)
ページ: 928-934