研究概要 |
本研究は、2次元層内でドナー分子が強い二量体構造をつくって配列する電荷移動塩κ-(BEDT-TTF)_2Cu_2(CN)_3の基底状態を熱力学的な観点から調べるために計画された。この物質では、二量体間のトランスファー(t,t')の比が1に近く、また強相関機構により電子が二量体に局在し、ダイマーユニット上のnラジカルに由来する等方的なS=1/2の三角格子が形成されている。年度の前半には、この物質の熱容量測定を^3He冷凍機を用いて、試料依存性まで含めて精密測定を行った。それらの測定により、絶縁体状態であるにも関わらずスピン液体に特徴的な温度の一次に比例する項が試料依存性なく存在することを指摘した。その後、緩和型の熱容量測定装置に超低温測定用の改良を加えて、超低温領域、強磁場領域での測定を行うために希釈冷凍機を用いた測定装置の開発に着手した。東北大学金属材料研究所の強磁場超伝導材料研究センターに設置された希釈冷凍装置(Oxford社製)を用いるのと同時に、本研究費を用いて大阪大学の15T磁石の温度可変インサートに挿入可能な小型希釈冷凍機を新規にデザインし設備備品として導入した。本年度は主として前者の冷凍機に熱容量測定セルを組み込むことを試みた。 超低温、強磁場下で温度計測には、KOA社の酸化ルテニウムチップ抵抗体(室温1kΩ)を用い、最大17Tまでの温度較正を行い超低温用セルを作成した。銅の原子核によるショットキー熱容量により磁場印加状態での冷却効率が悪いため、銅系の材料を出来る限り銀系の材料に変え75mKまでの測定を行った。その結果、最低温度でCuの核熱容量によるショットキー熱容量が現れるが、超低温領域でもスピン秩序を示さない低温極限で温度に比例する項が残ることが明らかになった。このことは、スピン液体的な基底状態が出来ていることを強く示唆する結果である。
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