研究概要 |
18年度に行ったフラーレン分子のSTMを使った単一分子操作の研究に引き続いて,19年度は研究計画に記載したように,C60電界効果トランジスタデバイスを構成する各部位の界面を,ナノスケールで調査することを目的として,金属電極とフラーレンとの接触界面に関する基礎的な研究を推進した.最初に,有機分子自己組織化膜で覆われた金電極表面にC60分子の薄膜を形成し,薄膜スケールでのC60の電界効果トランジスタ動作を詳細に調べた.その結果,薄膜スケールのデバイスにおいて,電極からC60活性層へのキャリアの注入が制御されることを見いだした.電流-電圧特性からキャリアの注入障壁を精密に評価する理論モデルを作り,モデルに基づいてキャリア注入障壁と,自己組織化膜を通過する際のキャリアのトンネル効率を決定した.得られた結果は以前よリ報告されている自己組織化膜で覆われた金表面にSTM探針から注入されたキャリアが透過するときの局所トンネル効率と同じであった.これは,薄膜スケールでのマクロな研究により求めた結果が,ナノスケールでのキャリア注入に関する研究で得られた結果と一致する点で興味深い.これらの結果をもとに,多様な自己組織化膜で覆われた金電極表面でのナノスケールでのC60の最密表面のSTMによる調査を開始した.これは,微少化されたナノスケールのデバイスにおける金-C60界面のキャリア注入過程を調査するためのものである.また,研究計画に基づいて新たにC70の最密表面形成に成功し,最密表面形成に適した条件を決定することができた.これをもとに,最密表面へのSTM探針からの電界印加による空隙形成と空隙の自在な移動-操作を行った.従来,C60のみで成功してきた単一分子操作を別なフラーレンで行うことができたのは意義深い.これらの研究を通じてナノデバイスの構造形成に関する基礎的な技術と知見を得ることができた.
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