研究概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)を使ってC70分子のSi(111)-(7×7)清浄表面上での積層過程の辞細な調査を行い,C70が,C60とは異なるVolmer-Weber型積層形態をとることを明らかにした.さらに,C70を数層積層後,100℃で加熱することにより最密表面の形成に成功した.Si(111)-(7×7)清浄表面でのC70の最密表面形成に関する成功例はこれまでになく,今回が初めての成功である.得られた最密表面の構造形態を詳細に調べるとともに,STM探針からの電界印加によって,分子スケールでの空隙形成を行った.また,C70最密表面はC60最密表面より多くの歪みを含んでおり,歪み部分への電界印加は,一度に20分子以上の空隙形成を引き起こすことを明らかにした.この研究は,本研究課題の目的である単一分子スケールでのナノ物質形成ならびにナノデバイス開発と直接結びついており,得られた成果によってC60に続いてC70で人工的に精密に制御されたナノ物質を作製する方法が確立された.この成果はApplied Physics Letters(APL)誌に掲載された. 芳香族分子であるピセンを使った高性能薄膜電界効果トランジスタ(FET)を作製し,このトランジスタが非常に良いpチャネルFET特性を示すとともに,酸素によってFET特性が大幅に向上する酸素センシング効果があることを明らかにした.酸素による特性向上は,Multiple trap and releaseモデルに基づいた解析から,トラップの劇的な減少によって生じていることを明らかにした.また,しきい電圧が酸素投入によって劇的に低下することから,トラップの減少が酸素による動作特性向上に寄与することを直接的に示すこともできた.現在得られている最高の移動度は5cm2V-1s-1を越えており,世界最高値に匹敵している.この研究は,本研究課題の目的であるフラーレンのナノデバイス作製を行う上で,最適なpチャネルFETを見つけだす必要があるために行った研究であって,ピセンFETの良好なデバイス特性の発見によって,フラーレンと組み合わせたナノスケールCMOS論理回路作製のメドを立てることができた.また,C60とp型半導体を接合させることによる光照射効果についても研究が完成しつつある.研究成果に関連して,J. American Chemicai SocietyならびにAPL誌に成果を報告するとともに,特許出願した.
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