研究概要 |
われわれは2001年に遷移金属磁性体MnAs_<1-x>Sb_xが室温で巨大磁気熱量効果を起こすことを見出した.この研究は磁気熱量効果の分野に大きなインパクトを与えたが,2004年にブラジルのグループがMnAsに0.2GPa程度の圧力を加えると,等温磁気エントロピー変化ΔS_Mが飛躍的に増大し,常圧の5倍以上に達することを報告している.彼らはこの現象を超巨大磁気熱量効果と呼んだが,その起源は明らかにされていない.本研究は超巨大磁気熱量効果を実験的に検証し,その物理的起源を明らかにすることを目的とする.本年度の結果は以下のとおりである. 1)MnAsの圧力下磁気熱量効果を6kbarまで測定した.ΔS_Mは圧力の増加にしたがって少し上昇するが,圧力が0.25GPaより大きくなると減少する.さらに0.3Ga以上で磁気熱量効果は消失した.これはMnAsの室温での結晶構造が圧力に対して不安定で,0.3GPaでMnP型構造に転移してしまうためである.結果的に超巨大磁気熱量効果は観測されなかった.MnAs_<1-x>Sb_xのx=0.07と0.3についても測定を行ったが,超巨大磁気熱量効果は見られなかった. 2)一次転移の場合Maxwellの関係式からΔS_Mを評価するのは危険なので,Clausius-Clapeyronの関係を用いてΔS_Mを評価してみた.MnAsでもMnAs_<0.93>Sb<0.07>でも2つの解析法から求めたΔS_Mはおおむね同じ値になっている.このことはMnAsで超巨大磁気熱量効果が生じていないことの証拠となる. 3)ではなぜブラジルのグループは超巨大磁気熱量効果を観測したかが問題になるが,かれらの測定した磁化曲線が異常な形をしており,それが原因となっていることがわかった.この異常は特定の測定器を用いたとき磁化曲線にのみ現われ,磁化温度曲線には見られない.こういったことから超巨大磁気熱量効果の原因は測定器の測定シーケンスの問題ではないかと考えられる. 4)CoS_2についても圧力下の磁気熱量効果の測定を行った.この揚合圧力の増加に伴い,転移は一次になるが,同時にΔS_Mは大きく増加することが明らかになった.
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