研究概要 |
電子の局在から非局在状態への移行過程およびその境界である量子臨界点での性質を明らかにすることは,最近の物性物理における大きな課題である。この問題を研究するのに最も適した物質は,固体中の各格子点で空間的に局在状態を保とうとする「局在性」と伝導電子との混成により結晶中を動き回ろうとする「非局在(遍歴)性」の相反する2つの性質を兼ね備えたf電子を内包する希土類(4f電子系)化合物である。4f電子系で局在から非局在への道筋の全体像を明らかにするためには,伝導電子と局在4f電子との混成強度を変化させた物性測定,とりわけ電子状態を直接観測する赤外・テラヘルツ分光や角度分解光電子分光が必要である。そこで本研究では,赤外・テラヘルツ分光と角度分解光電子分光をプローブとして,4f電子系の局在から量子臨界点を経由して非局在へ至る電子状態の変化からf電子系の量子臨界点近傍に表れる多彩な物性の起源を明確にすることを目的として研究を行った。 本年度の成果として,以下の項目が上げられる。 (1)アルカリ金属充填スクッテルダイトで,ナノサイズのカゴを作っているFe4Sb12の電子状態を赤外反射分光で調べた結果,Fe3d電子を起源とする重い電子状態が実現している証拠を得た。 (2)量子臨界点に位置する物質YbRh2Si2の極低温(0.4K)でのテラヘルツ反射スペクトルを測定し,キャリアの寿命の交流電場振動数依存性を調べた。その結果,寿命の逆数(減衰係数)が温度と同じべき乗(1乗)で変化しているのがわかった。この結果は,量子臨界点での非フェルミ液体についての1つの知見を与えている。 (3)局在から非局在へ結晶構造を変えずに変化させることができる一連の物質CeNi1-xCoxGe2の電子状態の変化を光電子分光と赤外反射分光で調べ,電子状態は量子臨界点で連続的に変化していることを明確にした。
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