研究課題
基盤研究(B)
可積分スピン系の相関関数の厳密な解析を推し進め、また量子輸送現象の研究を進める。(1)可解模型の相関関数の厳密な計算基底状態相関関数の厳密計算においては最近さらなる進展があり、多重積分表示に依らず、代数的に計算する方法が開発された。実際、ボース-城石-高橋は、XXX鎖の場合に量子クニツニク-ザモロチコフ方程式から相関関数の満たすべき関数方程式系を導き、それに基づき最終的な相関関数の形を決定する方法を定式化した。彼らは5サイト間の全ての相関関数を計算することに成功した。この方法を適用してさらに8サイト間のあたりまでの全ての相関関数を計算することを第1の目標とする。得られた結果からは縮約密度行列を通して量子情報理論で有用なエンタングルメントエントロピーの計算にも応用できる。また、2点相関関数に限れば、生成母関数に注目することにより、より遠くの相関関数まで計算できる。実際、佐藤-城石-高橋はすでに第7近接相関関数までの厳密な表式を得ている。より遠くの2点相関関数およびそれらの漸近的振る舞いを厳密に計算することが第2の目標である。さらに同様な方法で、より一般のXXZ鎖の基底状態相関関数の研究も進めて行きたい。ゲーマン-クリュンパー-ゼールの多重積分表示式に基づく高温展開を他の相関関数にも適用する。特に興味のある2点相関関数に関しては量子モンテカルロ法によるシミュレーション結果も併用して、その温度や磁場依存性を詳しく調べる。また、基底状態の場合と同様に、多重積分表示式の簡略化を目指し、その結果に基づいて相関関数の低温展開、あるいは長距離の振る舞いを計算する。同時に相関関数を代数的に決定するスキームの有限温度への一般化の可能性を追求する。一方、これらの2点相関関数からコンカーレンスを計算することにより、有限温度におけるエンタングルメントを評価できる。とりわけ、強磁性鎖かつ無磁場下では有限温度でもエンタングルメントが消えているという議論があるが、実際どうなっているかを検証する。また、磁場と温度の効果によってエンタングルメントが発生する可能性も調べる。また動的相関関数の計算や、t-J模型、SU(n)模型、Hubbard模型等の一般の相関関数の計算についても研究期間内目途をつける。(2)量子輸送現象の厳密解の手法による研究1次元量子系が理論・実験の両面から活発に研究され、顕著な量子効果による、特有の現象が数多く報告されている。例えば、その動的性質に着目すると、スピン揺動の伝播が、弾道的になることが理論的に示唆され、また実験的にも、古典系の数千倍にも及ぶ極めて大きなスピン拡散係数が観測されている。また、磁気励起が媒介する巨大な熱伝導率も測定され、最近では、電子やフォノンに加え、磁気励起が新たな熱伝導の担い手として注目されている。このような量子効果の強い系では、従来の準粒子の散乱に基づく現象論や、摂動論的な手法を用いた解析は困難であり、微視的かつ非摂動論的な理論が重要となる。1次元量子系の中には厳密に解ける一連の模型が存在し、近似的な手法を用いることなく様々な物理量が厳密に計算され、得られる結果は、現実の系に対して重要な知見を与える。本研究の目的は、これら1次元量子系における非摂動論的な諸現象、特に輸送特性や動的性質に対し、厳密解の手法を適用することにより、定量的な理論的検証および予言を行う。
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