研究概要 |
局所平衡や詳細釣り合いを前提とせず、生体分子が持つ"動的な"状態およびそれらをつなぐ時空間スケールをまたがる階層的なネットワークを時系列情報から再構成する方法論を開発した。この方法論では、与えられた時系列をある長さの(時系列)断片に分解し、「与えられた時系列に沿って次に現れる断片(未来配列)の情報を予測するうえで、どれくらいの長さの過去配列の情報を必要とするか?」を問い、その長さを同定し「状態」を同じ遷移確率分布をもつ時系列断片の集合として定義する。定義から、すべての断片は固有の遷移確率分布を持つひとつの状態に帰属することになるので、分子記憶を自然に取り込んだ状態を繋ぐ状態遷移ネットワークを構成することができる。1分子観察されたフラビン還元酵素の構造揺らぎの時系列(Yang,H. et.al. Science 302, 262(2003))に我々の方法論を適用し、(1)ブラウン拡散の時間領域に近づくにつれて、ネットワークがコンパクトになるとともに、ノード(状態)当たりのリンク数が増大し、状態遷移ネットワークのもつ多様性が減少すること、(2)異常拡散を示す時間領域において、状態間遷移をマルコフ過程と見做すために、ある有限の長さの時系列断片から状態を定義する必要があること、すなわち、局所平衡に基づくマクロな意味のネットワーク描像はこの短時間領域においては成り立たないこと、(3)通常拡散を呈する時間領域においては、より少数の状態から構成され、「過去の履歴を伴う必要のない局所平衡概念に基づく通常の準安定状態」として解釈されること、などが新規に時系列情報から読み取ることができることを明らかにした。このほか、多自由度力学系のポテンシャル井戸内の反応自由度-熱浴自由度の間のエネルギー移動を支配する不変構造残骸を検出する手法の開発や高次元力学系における(再交差挙動を与えない)厳密な遷移状態の分岐現象を初めて明らかにすることに成功した。
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