プロジェクトの1年目にあたる2006年度には、大学院生Hakime Seddikの博士論文研究の一環として、氷の異方性を考慮した極地氷床流動に関する連続体力学モデル(CAFFEモデル)が開発された。このモデルは正確な物理過程を程よく簡略化したもので、もっとも重要な物理過程を取り入れてかつ、計算機での演算が十分可能な数値モデルである。CAFFEモデルを東南極氷床コーネン基地のEDML氷コア掘削地に適用したところ、観測された表面流動速度と氷コアの結晶方位プロファイルをかなり良く再現することができた。 さらに、多用途に応用可能な新しい3次元氷流動数値モデル「Elmer/Ice」の開発をスタートし、南極氷床中央部にあるドームふじ付近に適用して試行実験を行なった。 また、大学院生大津聖子による修士論文として、数値モデルSICOPOLISを使ったグリーンランド氷床のシミュレーションが完了した。その結果、現在の北東グリーンランド氷流(NEGIS)は周辺のゆっくりとした流れと比較して、底面流動が約3倍促進されていることが示された。しかしながら、たとえ氷床表面の融解水が底面流動を加速させたとしても、予測されている地球温暖化によってNEGISがグリーンランド氷床全体の安定性に影響を与えることはない、ことが明らかになった。
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