研究概要 |
プロジェクト2年目にあたる2007年度、博士課程学生Hakime Seddikの学位論文が完成した。汎用性の高い3次元氷体流動モデル「Elmer/Ice」を開発し、東南極の氷コア堀削地ドームふじ基地周辺200×200kmの領域に適用した。「Elmer/Ice」では誘起異方性が「CAFFE(Continuum-mechanical, Anisotropic Flow model, based on an anisotropic Flow Enhancement factor)モデル」に基づいて記述される。この流動モデルを使った数値シミュレーションによって、以下の結果が得られた。(1)氷はドームからその周辺に向かって流れ、200×200kmの領域内での最大流動速度は1.4ma^<-1>。(2)ドームふじ掘削点において氷は弱い一軸異方性を示す。(3)掘削点は岩盤で融解温度に達している。(4)底面のところどころで融解が起きているため、岩盤近くの氷年代は、氷厚の厚いところよりもむしろ薄いところで古い。特に(3)と(4)の結果は将来の掘削地点の検討に重要な意味を持つものである。 「Elmer/Ice」はカムチャッカのウシュコフスキー火山にあるゴルシュコフ火ロ氷河にも適用された。この氷河は水平方向の広がりに対して氷が異常に厚く、地殻熱流量が非常に大きいという特徴を持つ。数値シミュレーションの結果、氷の流動は非常に遅く(年間数10cm)、底面での融解のため水平方向と垂直方向の流動速度が近い値を持つという特徴が明らかになった。また、過去に掘削が行われたK2地点の温度分布と氷年代が良く再現された。
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