H20年度の研究内容は以下の2点に分けられる。(i)浅層近似に基づいた数値モデルSICOPOLISを用いた、グリーンランド氷床およびその氷流の気候変動応答に関する数値実験。(ii) full Stokes方程式に基づいた数値モデルElmer / Iceを用いた、南極氷床のドームふじからしらせ氷河に至る流域の流動特性に関する数値実験。(i)に関しては、グリーンランド氷床を高分解能メッシュに分割し、いくつかの温暖化シナリオにしたがって、1990年(基準年)から2350年までの氷床変動を計算した。特に、表面融解水に起因する底面流動の加速(melt-acc effect)が氷床の安定性に及ぼす影響について詳細な解析を行った。はじめに、計算結果が21世紀初頭に観測されている氷床質量変化と一致するような形で、melt-acc effectをパラメータ化する手法を開発した。この手法を用いて数値実験を行ったところ、melt-acc effectによって氷流や氷河が加速することが示された。またそのような流動変化が、急激な氷床崩壊をもたらすまでには至らないものの、グリーンランド全域における氷床縮小を有意に加速させることが明らかになった。(ii)に関しては、しらせ氷河流域を有限要素メッシュに分割して数値実験を行い、流動速度と氷温分布を計算することに成功した。南極氷床の大規模な流域に対して、full Stokesモデルの適用に成功したことは意義深い。実験によって得られた流動速度は、これまでに観測によって明らかになっている、しらせ氷河に向かって収束する流動場を良く再現するものであった。また氷床底面の約50%が圧力融解温度に達していることが示唆された。
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