平成18年度は海流の影響を強く受けて形成されたと解釈される房総半島中央部に発達する中部更新統のサンドリッジ堆積物の解析を行った。特に今年度の研究では、万田野層(およそ60万年前)上部のサンドリッジ堆積物の特徴を詳しく検討した。連続的に観察される露頭断面において1km以上にわたって追跡される侵食面が認定され、全体でおよそ80m以上の層厚を示すサンドリッジ堆積物が6つのユニットで構成されることが明らかとなった。これらのユニット内部にはマスターベッティングと解釈される緩く傾いた層理が認められる。これら層理の傾く方向とサンドリッジ堆積物を特徴づけるトラフ型斜交層理から求められる古流向には10〜20°程度の違いが認められる。したがって、マスターベッディングはサンドリッジの側方付加面を示すと解釈される。一つのユニットに注目すると、最上部付近に波浪作用の影響を強く受けて形成されたと解釈されるリップル葉理や陸側と沖合側の古流向を示すトラフ型斜交層理の発達が広く観察された。さらに、これらの堆積物の上面を区切る侵食面の直上には、礫、木片、クジラなどの海棲哺乳類の骨、貝化石などが濃集した堆積物の発達が認められる。したがって、一つのユニットの形成は、大規模なストーム、あるいは津波などに起因する振動流の影響を受けて放棄されたことが理解される。その後、陸棚上に新たに供給された粗粒堆積物を核として、新たなサンドリッジの形成が行われたと解釈される。万田野層のシーケンス層序学的な枠組みと酸素同位体比曲線との比較から、万田野層上部を構成する6つのユニットの形成は、およそ2000年程度の間隔で行われたことが理解される。このような形成間隔は、1000年オーダーのENSOにともなう黒潮変動を反映している可能性が考えられる。平成18年度の研究成果の一部は日本堆積学会2007年例会で発表され、最優秀ポスター賞を受賞した。
|