研究概要 |
(1) 東ネパールの変成岩ナップの熱年代学的研究によって得られたデータから,変成岩ナップの冷却プロセスを検討し,冷却速度を推定した。従来フィッション・トラック年代に基づき岩体の冷却速度と上昇速度を推定する際には,地温勾配一定として垂直方向に上昇が進んだという仮定を設けていた。しかし本研究により,ジルコンのFT年代が示す240℃の等温線も,アパタイトの示す120〜100℃の等温線も時代と伴に南から北に向け側方に後退しており,その年平均後退速度は1〜1.5cmであったことが判明した。 変成岩ナップ全体は3Maまでに240℃以下に,さらに1Maには120℃以下に冷却した。その結果レッサーヒマラヤ全体が脆性的に破壊するようになり,その結果応力集中の場が南方の前縁盆地に移り,MDTとMFTが形成されたことが推定された。 (2) 古カトマンズ湖の周辺部から得られたボーリングコアについて,自然残留磁化と熱残留磁化を測定し,地磁気極性からブルンヌ-松山境界とハラミロイベントを検出した。このコアの粒度組成は,湖中心部のコアのそれに比べる粗粒でシルト質であるが,少なくとも約100万年前には湖が拡大し始めていたことが検証された。 (3) 湖中心部のコアの深度34〜12m (5.3〜1.5万年前)の約80試料について,多環式芳香族炭化水素類(PAHs)の同定と定量分析を行い,乾湿変動の検出を試みた。その結果,PAHsが高濃度で検出された期間は,花粉分析で乾燥期と推定された期間と一致した。特に最終氷期の最盛期には最も高濃度であり,著しく乾燥化が進んでおり,珪藻化石の記録では,湖水位が著しく低下していたことが判明した。
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