本年度は、恐竜の脳の一部(嗅球)に着目した研究と、非鳥類型恐竜にみられる鳥類の特徴についての研究の成果を出した。 嗅球は、においを感知する脳の一部であり、肉食恐竜(獣脚類)における重要性を明らかにした。研究の対称になったものには、ティラノサウルスをはじめ、始祖鳥やダチョウ型恐竜として知られているオルニトミムス類などがある。その結果、ティラノサウルスは、今まで考えられていた以上に臭いに敏感で、これまで死肉を食べていたという説を否定し、活発的に獲物を襲っていたことを裏付けた。現在生きている鳥類や哺乳類で大きな嗅球をもっているものは、臭いを使って夜間や広い範囲の獲物を探していることが知られている。ティラノサウルスをはじめ大きな嗅球を持っていた獣脚類も同様に活発的に獲物を探していたと思われる。さらに興味深いことに、最も原始的な鳥として知られている始祖鳥も、ほとんどの獣脚類と同様な嗅覚を持っていたことがわかった。これは、鳥に進化したとされる始祖鳥は、他の獣脚類に負けない臭いの感覚を持っていたことを示している。これまで、飛行に適応した始祖鳥は嗅覚よりも視覚に頼っていたとされていたが、まだ原始的な始祖鳥は、祖先である獣脚類の特徴を持っていたことを示す。また、鳥への進化の過程で、地上に適す嗅覚に頼った生活から、飛行に適す視覚へ頼った生活に変化していったことを明らかにした。この内容は、英国の学術誌Proceedings of the Royal Society Bに論文を出版した。 二番目の研究は、まだ論文化されていないが、鳥類か非鳥類の恐竜かの議論があるオビラプトロサウルス類の脳幹に注目し、解析をしている。この研究によって、オビラプトロサウルス類の体骨格は多くの鳥類の特徴を持っているが、脳の構造から推測するとそれらは収斂である可能性が示唆した。
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