研究課題
今年度の研究によって、中生代に生息していた典型的な恐竜類から鳥類への脳の進化と環境への適応が明らかになり、脳には進化のシグナルを持つ保守的な部分と環境に適応するために臨機応変に変化しやすい部分があることがこの研究でわかった。特に恐竜と鳥との境界を探るために、鳥類に近い恐竜(オビラプトル類などのコエルロサウルス類)と鳥類に進化したばかりの鳥類(始祖鳥)に注目し、それらの脳の進化過程を研究した。その結果、鳥類のような特徴を多く持つオビラプトル類は、鳥になりきっていない恐竜であることを明らかにした。このことによって、恐竜は鳥類に進化する以前から、鳥類の特徴を数多く獲得しており、その蓄積によって、鳥類への進化につなげていったということが考えられる。この収斂進化は、最古の記録よりももっと以前から、鳥類になりきっていない恐竜が鳥類になる能力を持っていたことを示す。さらに、特に嗅覚に注目し、恐竜の生態進化について追求した。その結果、大きく3つのことが明らかになった。(1)体の大きさに比例して嗅球と大脳の比率が大きくなる。大きい体ほど嗅球は大きくなり、その一方で大脳の肥大が遅く、体の巨大化には大脳よりも嗅覚の方が重要であったということを示す。(2)オルニトミモサウルス類とオビラプトロサウルス類の嗅球は,全体の傾向よりも顕著に小さい。一方で視葉の発達が目立ち、嗅覚よりも視覚に頼った雑食または植物食であったことを示す。(3)ティラノサウルス類とドロマエオサウルス科は、大きな嗅球を持っている。嗅球の肥大によって遠くにいる獲物や暗闇に隠れている獲物も優れた嗅覚で感知していた可能性があり、どの肉食恐竜よりも優れていた捕食動物であった。この結果を基に、食性の進化過程をみると、獣脚類全体の傾向としてアロサウルス類のような獣脚類と同様な傾向にあるため肉食性が原始的な状態であることが考えられる。その後、植物食性やさらなる肉食性を派生的に進化させた可能性が高い。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件)
Novitates 365
ページ: 1-35
Acta Geologica Sinica 83
ページ: 39-45
Journal of Vertebrate Paleontology 29
ページ: 295-302
Palaios 24
ページ: 466-472
Geological Magazine 146
ページ: 690-700