研究概要 |
渦鞭毛藻シストは物理化学的な耐久性を持つ細胞外被で被われており,微化石として堆積物より産することから,生層序学,古海洋学,系統進化学の基礎情報として活用される。渦鞭毛藻のシストと遊泳細胞の対応関係は,形態観察と培養実験により明らかにされてきたが,この対応関係の不明な種も多く存在する。本研究は,形態学的知見に分子系統解析手法を組み合わせることで,シスト-遊泳細胞対応関係の確立を目的とする。今年度は,セディメントトラップを用いて渦鞭毛藻シストを採集し,単細胞PCRによるDNA配列決定を試みた。セディメントトラップ試料は長崎県大村湾で定期的(2定点,月2回ずつ)に採集し,カナダ・ビクトリアで形態・遺伝子比較のための堆積物とプランクトン試料を入手した。遺伝子解析には,遊泳細胞で単細胞からの塩基配列の増幅・決定についての実績があり,また,渦鞭毛藻では比較的多くの種の配列が決定・公開され,比較が容易なSSUrDNAを用いた。その結果, 1,既にシスト-遊泳細胞対応関係の明らかなPyrophacus steiniiを用いて,シストの形態視察後に塩基配列を決定し,同種の配列であることを相同性検索で確認した。シスト1細胞から塩基配列増幅・決定が可能であることを確認した。 2,セディメントトラップに補足された小型球形でシスト壁が無色・平滑であるシストの遺伝子解析を行い,Alexandrium hiranoiと部分配列が一致する結果を得た。形態形質のみでは種同定できないシストでも分子同定が効果を発揮することが確認できた。 今年度はDNA抽出のためにPCRチューブ内でガラス針を用いてシスト壁を直接破砕する方法を用いた。しかし,渦鞭毛藻のシスト壁は種により厚さと色が異なるため耐久性の差異があり得る。この手法でDNA抽出が困難な種が出現した際には,凍結-解凍やマイクロマニュビレーターを用いた破砕を試みる。
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