研究課題
月岩石・隕石の実験室での反射スペクトルと月・小惑星の天体観測スペクトルには大きな違いがある。観測スペクトルは、全体的に暗く、波長が短いほど反射率が低い「赤化」の傾向があり、輝石やカンラン石に特有の1ミクロンの吸収帯が相対的に弱い。この月・小惑星表面の反射スペクトルの変化は、シリケイト中に含まれる酸化鉄が、高速ダスト衝突により還元されてナノメートルスケールの金属鉄微粒子となる「宇宙風化作用(Space Weathering)」と呼ばれる過程で天体表面が変成されたためと考えられている。本年度は、反射スペクトル測定のために、近紫外・可視から近赤外域(250-2600nm)の領域の二方向反射率を入射・反射方向可変で取得できる装置を導入した。特注でステージ設置部を拡大して、さらに入射角・反射角を3次元的に変化できる装置を新規開発して国立天文台水沢地区に設置した。本研究では、宇宙風化作用による太陽系年代学の解明という全体の大きな目的の中で、基準指標となるデータを「はやぶさ」の探査した小惑星イトカワで確立することを目指す。そのために、イトカワの反射スペクトルに近い普通コンドライトの宇宙風化実験を行った。イトカワ組成に近い、隕石試料にレーザー照射を行い宇宙風化作用を模擬したデータを取得した。「はやぶさ」の表面反射スペクトルとの比較から、イトカワ表面の色の変化は組成の違いではなく宇宙風化度の違いとして説明できることが明らかになった。また、これまであまり行われていない、隕石岩片試料への宇宙風化作用実験を行った。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
Nature 443
ページ: 56-58