研究概要 |
海水の汚染状況を把握するには、海水中の有害金属元素の直接測定が手っ取り早い。しかし、海水中には0.35%にのぼる塩類がとけ込んでおり、微量の有害金属元素定量には困難を伴う。また、季節により海洋環境は変化し、海水の直接測定では、長期的な汚染状況の把握が困難である。そこで、本研究では、大型藻類「ワカメ」の化学分析を通して、海水の汚染状況を把握することを目的とする。研究初年度にあたり、ワカメの部位ごとにどの程度金属元素含有量の違いを明らかにすることを目的とし、採取したワカメ試料を葉状部と胞子葉に分割し、ICP-MSにより16元素の化学分析を行った。 その結果、葉状部,胞子葉共にMg濃度が顕著に高く,乾燥重量当たり^0/_<00>レベルであり、次いでZnやCuの濃度が他の元素に比べて比較的高く,Znは20-35ppm,Cuは10-60ppmであった。一方,CdやSnの濃度は比較的低く,Cdは0.2ppb,Snは0.2-0.4ppbであった。葉状部と胞子葉の各金属元素濃度を比較すると,MgやCd,Hgを除くほとんどの金属元素が葉状部に高濃度に含まれていることが分かった。 ワカメが葉状部から取り込まれた栄養元素は、髄層を介して胞子葉へ輸送される(Wu and Meng,1997)。Kumura et al.(2006)ではワカメ葉状部に含まれる栄養塩が胞子葉の形成と供に減少していくことを明らかにしており,ワカメの胞子葉形成に葉状部の栄養塩が輸送されることを示唆している。しかし、胞子葉において高濃度を示した元素はMgとHgのみであり,元素によって胞子葉への輸送能に違いがあると考えられる。 胞子葉は成熟した藻体にのみ見られるため,環境指標に用いる部位として葉状部が有効であることを明らかにした。葉状部の中でも細胞が若く,付着生物が少ない下部が海水汚染指標として利用可能と考えられる。次年度は、大阪湾沿岸に生育するワカメ試料を採取し、葉状部下部の分析を通して、ワカメ試料間に見られる金属元素濃度分布と海水の汚染状況との対比を試みることとする。
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