超高強度レーザーと物質との相互作用により、高速電子の速度分布は、初期、きわめて非等方であり、プラズマ伝搬中に局所的電磁界を介して急速に緩和し、最終的に高温の等方プラズマが形成される。その結果、レーザープラズマにおい、非等方な高速電子とプラズマ中のイオンとの衝突の結果、放射X線は偏光する。このように、放射X線の偏光度を測定することにより、高密度プラズマ中の高速電子の非等方速度分布とその変化の様子を測定することが可能となる。本研究は、超高強度レーザープラズマ中の高速電子輸送に着目し、放射される偏光X線分光からその速度分布の直接観測を可能にする(1)新しいプラズマ診断法を開発するとともに、(2)高速電子輸送からX線放射過程までを統合した新しい計算コードによるシミュレーション解析手法を確立して、高密度プラズマ中の高速電子輸送を解明することを目的としている。 本年度は以下の研究を実施した。(1)これまでに実施した偏光X線分光に関する実験のデータの解析を進め、ターゲット深さ方向(密度勾配を遡る方向)に沿って負の偏光度から正の偏光度に移り、最終的に無偏光になることから、高速電子速度分布の異方性が1017W/cm2領域のみならず、10^<18>W/cm^2超の相対論プラズマ領域にも見出され、レーザー電界方向から密度方向に沿った異方性への変化があることを見いだした。(2)従来の実験で得た結果を基に、塩素Heα線の偏光度に関する高励起状態も含めたレート方程式解法を構築し、高密度領域における弾性衝突による偏光度の低下を定量的に解析した。(3)高密度領域における偏光度から、高速電子ビームの角度広がりの直接計測が可能であることを示し、従来の研究との差異について検討を加えた。これらの成果を統合すべく、著名学術誌への投稿作業は最終段階にある。また、米国プラズマ中の原子過程国際会議の招待講演を受けている。
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