今年度はH_3O^++e^-およびCH_3^++e^-に対して状態遷移を考慮した第一原理分子動力学シミュレーションを行い、解離性再結合反応の動力学的描像を調べた。電子状態計算には状態平均CASSCF法を適用し、TZP基底関数を用いた。反応に関わる電子励起状態を考慮に入れ、状態遷移はTullyの最小遷移数アルゴリズムを採用した。量子化学計算にはMOLPROを用い、得られたエネルギー、エネルギー勾配、非断熱結合ベクトルを利用して原子核および電子の自由度を時間発展させる動力学プログラムを開発した。前者の反応に対してはindirect processを想定して原子価状態とRydberg状態を考慮したシミュレーションを行い、地上実験により報告されている4種の解離生成物への分岐比を定性的に再現することができた。また、重水素置換したHD_2O^++e^-に対するシミュレーションも行い、動的同位体効果を吟味した。星間空間では重水素を含む化合物が過剰に大きくなることが報告されているが、その結果がシミュレーションにより再現された。後者のCH_3++e^-に対してはカチオンの基底状態と中性種の解離性原子価状態の交差点を経由するdirect processを想定し、第一原理分子動力学計算により交差点を多数求めた。カチオンの基底状態と交差するのは下から7番目の状態であり、CH_3^+のゼロ点振動エネルギーの範囲内にあることがわかった。これら交差点より動力学計算を行ったところ、すべてCH_2+Hとなることが示された。ただし解離したCH_2は激しく振動しており、CH+HまたはC+H_2に解離する可能性がある。
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