非線形光学現象は近い将来の大容量・超高速の光通信や光情報処理技術の根幹をなす基本物質が持つべき特性として非常に重要であり、近年、優れた非線形光学効果をもつ物質系の分子レベルからの機構解明やそれに基づいたラショナルデザインが盛んに行われるようになってきた。我々は、世界に先駆けて開殻系の三次非線形光学効果(第二超分極率γ)の理論化学計算による解明を行い、開殻分子系からなる新規非線形光学物質の設計への道を開いたが、その複雑な電子状態や鋭敏な応答特性に起因する高精度大規模理論計算の必要性や合成/測定の実験の困難さから、その優れた特性発現の可能性にも関わらず、その特性や機構解明は殆ど未開拓といってよい状況であった。このような状況下で、我々は、スピン分極を利用する全く新しい視点から開殻分子系の非線形光学効果の制御可能性を理論的に予測し、それらのモデル系を提案した。これは、(a)スピン状態(スピン多重度)、(b)開殻一重項(ジラジカル)におけるジラジカル因子、を新しい制御パラメ-タとして、磁気的特性を備えた開殻分子やジラジカル分子系を新規非線形光学系として捉える立場である。ジラジカル因子とは、開殻の程度を表し(0が閉殻、1が完全に開殻をあらわす0以上1以下の数値)、量子化学計算により定義できる指標である。 本研究は、実験と理論計算の専門家の共同による体制で遂行し、以下のような分担を行った。 (A) 開殻分子系の非線形光学効果の理論および高精度理論化学計算による機構解明と新規設計指針の提案(中野) (B) (A)で提案されたモデル系の合成(久保) (C) 合成された分子系の非線形光学特性の測定(鎌田) これらの間で成果を互いにフィ-ドバックすることにより、新規開殻分子系の機構解明、開殻非線形光学物質の新規構造-特性相関の構築、それに基づく実在分子系の設計と合成およびその機能評価を行うことが可能となり、全く新しい開殻非線形光学物質の領域を切り開くことが可能となると期待できる。
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