研究課題/領域番号 |
18350008
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 兆 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80029537)
|
研究分担者 |
川上 貴資 大阪大学, 理学研究科, 助手 (30321748)
北河 康隆 大阪大学, 理学研究科, 助手 (60362612)
|
キーワード | MnCu二核錯体 / 磁気異方性 / DおよびE値 / ジャロシンスキー・守谷項 / カイラル磁石 |
研究概要 |
本研究では単分子磁石のスピン反転障壁を決定する磁気異方性パラメータD値の大きさと符号をスピン軌道相互作用(SO)に起因する2次摂動論で求める基本式を定式化し、C言語を用いて新規ソフトウェアを開発した。摂動計算に用いる基底分子軌道としては、非制限ハートリー・フォック(UHF)法、非制限密度汎関数(UBLYP)法およびハイブリッド型UDFT(UB2LYPなど)により求めたものを使用した。まず、これらの手法でベンゼン、ナフタレンの3重項励起状態におけるD値を計算したところ、10^<-4>cm^<-1>となり、実測値と同程度となった。一方、3重項メチレンのD値はUHF、UB3LYP、UBLYPでそれぞれ、0.005、0.1022、0.046cm^<-1>となった。次に、大塩らにより合成されたMn(II)-Cu(II)2核錯体のD値は、UB3LYPおよびUBLYPで各々-0.59、-1.29cm^<-1>となり、後者の値は符号と大きさ共に実測値-1.81cm^<-1>と良く一致している。本年度の異方性(D)値の計算結果は、最近合成が進展している数多くの単分子磁石のD値の計算に適用可能であることを実証した。 次にカイラル分子磁石のスピン回転角とカイラリティを決定するDyaloshinskii-Moriyaベクトル(d)をスピン軌道相互作用を含めた一般化スピン軌道(general spin orbital : GSO)を用いて第一原理計算する手法を開拓し、新規ソフトウェアを開発した。まず、正三角形のH_3ラジカルを一例として取り上げ、右および左巻きのGSO解を構成し、そのエネルギー差からdベクトルの大きさを計算した。d値はHF、B3LYPおよびBLYP法で、13.7、16.8、17.1Kであり、CAS CI[12.3]の値15.0Kを再現した。次にD_<3h>型B(CH_2)_3のd値をHF、SVWN5で計算すると、0.84、3.79Kであった。CAS CI[12,3]によるd値は1.34Kであることにより、SVWN5法はd値を過大評価しているようである。しかし以上の結果は、次年度以降より実在系に近い物質系への適用可能性を示すものである。
|