研究概要 |
我々は連続掃引フーリエ変換型分光器を用いた時間分解分光法をマイクロチップ・コンピューターSXを用いて開発した。本研究においては、昨年度FPGAと呼ばれる回路集合体を用いて時間分解分光を行う装置を開発し、以前のSXを用いたシステムに比べて時間応答の点などで改善された。これまで主にフーリエ分光法を用いた発光分光法で行ってきたが、本研究では吸収法を適用するために、チタンサファイアレーザーで近赤外領域を発振させ、intracavityの実験を行うことにした。そのため高繰り返し(10kHz)で最大10mJ出力のNd:YLFレーザー(527nm)を購入し、チタンサファイア結晶に照射し,レーザー発振を確認した。共振器用ミラーとして850nm用を使用しているので、フーリエ変換分光器に入射したところ、11500-12000cm-1の領域で発振していた。intracavityセルの設計を行い、本格的実験の準備が整った。またNd:YLFレーザーはアブレーション実験の光源として用い、様々な金属からの赤外発光を観測できた。FeとCuからは多くのスペクトル線が2500-4000cm-1で観測された。Feからの発光スペクトルの遷移は4f-5gに対応し,4f状態のエネルギーは基底状態から61800cm-1高い。ATMOSで測定された太陽からのスペクトルは吸収として観測されているが,よく対応している。また炭素棒のアブレーション生成物と酸素分子との反応により一酸化炭素からの発光が2145cm-1付近に観測された。低温の暗黒星雲ではエネルギーの高いHNCがHCNとほぼ等量か多く存在しているところがあり、HCNH+と電子との解離性再結合反応で生成するHCN, HNCの分岐比決定が長い間の懸案となっている。本実験では,液体窒素温度とドライアイス温度でCH4, N2, He混合物のパルス放電の後,時間分解分光により赤外発光スペクトルの時間変化を観測した。HCN, HNCのスペクトル線強度は放電が切れた後に増加していることが認められた.(HNCのv1=2振動励起状態からの発光強度は減少していた.)その増加分を比較するとHCNがHNCより6-10倍多く生成していた。イオンと電子の再結合反応以外でのHCN生成の寄与を考慮する必要がある。
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