分子スピン量子コンピュータや量子情報操作への展開を視野に入れた分子スピンの新たな応用を開拓することを目的として、分子スピン量子状態制御に基づく分子スピンテクノロジーの開発研究とモデル系の開拓研究を展開した。パルス電子-核多重共鳴(EMDOR/TRIPLE)法による量子演算を実証するために、マロニルラジカル希釈単結晶試料やベンゾフェノンをホストとするジフェニルニトロキシドや重水素標識したジフェニルニトロキシドの希釈系単結晶試料を育成し、量子状態制御の実験を行った。パルスESR/ENDOR技術を応用することにより量子状態の初期化し、絡み合い状態を形成した。生成した量子絡み合い状態にマイクロ波パルスやラジオ波パルスを照射することにより、量子絡み合い状態間の量子変換を実現した。量子絡み合い状態の変換によって生じる電子スピンや核スピンのスピノール性を観測することにより、スピン1/2の量子状態変換に対する一般的性質を実験的に実証し、新しい分子スピンテクノロジーとして利用できることを示した。また、溶液状態にある分子スピン系を利用した量子コンピュータの開発を目的として、分子スピンバス量子コンピュータに適した分子スピン系の探索を行った。重水素やフッ素原子で標識した種々のジフェニルニトロキシドを合成し、溶液のESRスペクトルを測定した。超微細結合定数を決定することにより電子状態を解明し、各々の等価な核種の個数や制御可能性を明らかにした。パルスESR法を用いて決定したスピン系の緩和時間を評価することにより、量子演算の実行可能性を考察した。大きな電子的変調効果が生じるフッ素原子を導入することにより緩和時間が増大することが明らかとなり、溶液電子スピン系での量子演算を実現できる可能性を示した。
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