研究概要 |
新しいP-キラルホスフィン配位子である2,3-ビス(1-アダマンチルメチルホスフィノ)キノキサリンの合成法について検討し,100%eeの目的物をアモルファス状の固体として得た。この配位子の塩化パラジウム錯体を合成し,その構造を単結晶X-線解析により確認した。この配位子を用いて典型的なロジウム錯体触媒不斉水素化を行った結果,99.9%eeの還元生成物が定量的に生成した。また,パラジウム錯体触媒による不斉開環反応では95.2-98.5%のエナンチオ選択性が観測された。 メチル基は最小のアルキル基であるが,アルキニル基の炭素-炭素三重結合部位は,メチル基よりも立体的に小さいと見なすことができる。そこで,この考えに基づいて以前に合成したt-Bu-BisP*のメチル基をアルキニル基に置き替えたP-キラル配位子の合成と不斉触媒能を検討した。最初に標的配位子を合成するために必要な光学活性ハロホスフィンボランの合成と求核試薬との反応について種々検討した。その結果,光学的に純粋な二級ホスフィン-ボランであるt-ブチルメチルホスフィン-ボランを原料としてハロホスフィン-ボランを発生することができた。すなわち,ブチルリチウムで脱プロトン化したのち,1,2-ジヨードエタン,1,2-ジブロモエタン,またはヘキサクロロエタンを反応させて対応するハロゲン化物を生成させた。これらの中でブロモ体がリチウムアセチリドと円滑に反応して立体反転した置換生成物を与えた。これらの生成物より二量化と脱ボラン化を経て目的物であるホスフィン配位子を合成することができた。 得られた配位子を2,3の代表的遷移金属錯体触媒反応に適用した結果,特に炭素-炭素結合形成反応においてほぼ100%の立体選択性の発現が見られた。
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