研究概要 |
イェッソトキシン(YTX)は,毒化したホタテガイの中腸腺から,下痢性貝中毒の原因物質のひとつとして単離された梯子状ポリエーテルであり,リンパ球細胞内カルシウム濃度の上昇や,カスパーゼの活性化を経由する機構でアポトーシスを誘導することが明らかとなっている。また,同種の渦鞭毛藻からYTXの配糖体類縁体であるプロトセラチン類が単離・構造決定されたが,ヒト腫瘍細胞に対して非常に強力な細胞毒性を示すことが報告され非常に注目を集めている。YTXのように分子長の長い分子の合成を効率的に行うためには,収束的合成法の開発が必要不可欠である。本研究者は,YTXを3つのフラグメント,ABC環部,F環部,およびIJ環部に分け,それぞれを連結する計画を立て,各フラグメントの連結には,α-シアノエーテルを経由する二環構築型収束的合成法を用いることにした。FGHI環部の合成を行う上で,G環部の構築すなわちβ-配向の26位メチル基を含む八員環エーテルの立体選択的構築が克服すべき課題である。F環部ジオールとIJ環部アルデヒドから,アセタール化によるカップリング,およびアセタールの位置選択的開裂を経由して鍵中間体であるα-シアノエーテルへと導いた。オレフィンの導入,続くRCMによって人員環エーテルを構築し,速度論的条件下でのメチル化を行うと望むβ-配置のメチル基を有するケトンを単一の生成物とし与えた。さらに還元的エーテル化等を経由してFGHIJ環部の合成に成功した。ABC環部については,新規な立体選択的合成法の開発を試みた。A環部トリフラートと2-フリルリチウムとのアルキル化を行った後,酸化的なフラン環の環拡大反応を経由してピラノンへと変換した。次に,酸性条件下での分子内ヘテロマイケル付加反応を行い,望むトランス縮環体を選択的に得ることに成功した。さらに還元的エーテル化等を経由してABC環部の合成に成功した。
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