研究概要 |
イェッソトキシン(YTX)は,毒化したホタテガイの中腸腺から,下痢性貝中毒の原因物質のひとつとして単離された梯子状ポリエーテルであり,リンパ球細胞内カルシウム濃度の上昇や,カスパーゼの活性化を経由する機構でアポトーシスを誘導することが明らかとなっている。また,同種の渦鞭毛藻からYTXの配糖体類縁体であるプロトセラチン類が単離・構造決定されたが,ヒト腫瘍細胞に対して非常に強力な細胞毒性を示すことが報告され非常に注目を集めている。YTXのように分子長の長い分子の合成を効率的に行うためには,収束的合成法の開発が必要不可欠である。本研究者は,YTXを3つのフラグメント,ABC環部,F環部,およびIJ環部に分け,それぞれを連結する計画を立て,各フラグメントの連結には,α-シアノエーテルを経由する二環構築型収束的合成法を用いることにした。F環部ジオールとIJ環部アルデヒドから,アセタール化によるカップリング,およびアセタールの位置選択的開裂を経由して鍵中間体であるα-シアノエーテルへと導き,RCMにより8員環エーテルであるG環部を構築した。還元的エーテル化によるH環部の構築は,スケールアップに伴い収率が低下することが明らかになった。この問題点は,新しい手法であるマイクロ,フローリアクターを用いることで克服することができ,FGHIJ環部のグラムスケール合成に成功した。さらにABC環部とFGHIJ環部をα-シアノエーテル法によって連結し,ABCDEFGHIJ環部の合成に成功した。さらに側鎖を伸長するために,トリフレートとリチウムアセチリドとのカップリング反応を行ったところ,モデル実験とは異なり,溶媒であるHMPAが付加した副生成物のみが得られた。そこで,HMPA非存在下,塩化セリウムを添加剤として加えることにより,目的物のみを選択的に得ることに成功した。
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