研究概要 |
この研究では、ナノチューブ独特の包接挙動を構造有機化学の立場から精密に解析するために「単分子・π電子系ナノチューブ」を創製してその特異な包接挙動を解明することを目的としている。平成20年度は、ナノチューブ分子の構成単位であるマクロサイクル類の包接挙動の解明と、これらのマクロサイクル類を共有結合で段階的に連結する方法について研究した。 1.π電子受容性を持つピロメリット酸ジイミド骨格2個とジヘキシルオキシナフタレン環2個からなる マクロサイクルの空孔に、電子供与性のアニリン1分子が包接されるだけでなく、空孔外のヘキシルオキシ鎖で形成される空間に環状アニリン3量体が生成している事をX線結晶構造解析により発見した。この3量体では自己相補的なNH..π相互作用が環状構造を取る駆動力となっている事が分かった。このように実験的に環状アニリン3量体が観測されたのは初めてである(CrystEngComm.,2008)。更に、このマクロサイクルが有機溶媒中(クロロホルム)ポリメトキシベンゼン類を選択的に認識する事を発見した。ポリメトキシベンゼン類を認識するホスト分子はこのマクロサイクルが最初の例である(論文投稿中)。 2.これまでに開発した包接能を持つマクロサイクル類を連結してチューブ状分子を構築する最初の段階として、ピロメリット酸ジイミド骨格2個とベンゼン環2個からなるマクロサイクルのジイミド部分のベンゼン環に臭素原子を導入し、更に、薗頭反応によりフェニルアセチレン基に変換した(J.Org.Chem.,2008,73,4063)。現在、臭素原子をエチニル基に変換してエチニル置換マクロサイクル類を収率良く合成する方法を検討している。エチニル基が導入できたら、酸化的2量化反応による連結反応を試みる予定である。 3.上記研究と関連して、シッフ塩基の動的共有結合形成反応を利用して巨大なテトラポッド構造を持つカプセル型ホスト分子を合成し、その構造と性質について詳細に調べた。その結果、このホスト分子の空孔に溶媒分子が入り込めるために、用いる溶媒分子の体積に依存してホスト分子の体積が変化する事を発見した。高分子の膨潤現象は良く知られているが、低分子化合物でこのような現象が観測されたのは初めてである(論文作成中)。
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