研究概要 |
本研究課題では、外場(磁場、電場、光)制御による新しい現象を実現するため、磁気および電気的双安定状態を備えた金属錯体の合理的設計と外場制御に関する研究を行った。 シアノ架橋型金属錯体であるRb_χMn[Fe(CN)_6]_<(χ+2)/3>・zH_2Oは、電荷移動とヤーン・テラー効果によってヒステリシスを伴った温度誘起相転移を発現する材料である。この転移温度はRb含有量に依存し、χ=0.64の錯体がT_<1/2↓>=162K,T_<1/2↑>=302K,ΔT=140Kという巨大な温度ヒステリシス幅を持った相転移を示すことを見出した。この温度ヒステリシスを、相転移現象を記述する平均場近似式のSlichter-Drickamer式を用いて理論計算すると、低温相への相転移は生じないという予測が得られた。実際、χ=0.61の試料では低温相への相転移は見られなかった。しかし次に、χ=0.61の試料に温度140Kで410nm光を照射したところ、照射前に観測されていたXRDパターンは減少し、新たなパターンが発現した。この後、室温まで温度を上げると、構造は光照射前に戻っていた。同様の実験を、IRスペクトルを用いて行うと、この光構造相転移はMn^<III>-NC-Fe^<II>からMn^<II>-NC-Fe^<III>への電子状態の変化を伴っていることが示唆された。これは、410nm光照射が[Fe^<III>(CN)_6]の金属配位子間電荷移動を励起したことにより、Mn^<II>-NC-Fe^<III>からMn^<III>-NC-Fe^<II>への光電荷移動を引き起こしたことがドライビングフォースになっていると考えられる。
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