レニウム(I)ジイミン単核錯体は、室温溶液中でも強く発光するため、これまでその光物性が詳しく研究されてきた。我々は、独自に見出した光配位子交換反応を利用し、リング状にRe(I)錯体が連結した様々な多核錯体(図1)を合成することに成功した。全てのリング状多核錯体は、いずれも室温溶液中で発光した。その発光特性は、含まれるレニウムの核数と架橋リン配位子の種類によって劇的に変化することが分かった。リング状錯体のモデル化合物となる単核及び直鎖状二核錯体と比較して、発光量子収率がほとんど変化しないものから、5倍程度強く発光するリング状多核錯体も存在した。例として、PPh2-CH2-CH2-PPh2で架橋した錯体の発光スペクトルを図2に示す。リング状錯体は3、4核共にモデル錯体より強く発光したが、3核よりも4核のほうがより強く発光した。発光寿命は2成分で解析され、発光量子収率が大きいほど、長寿命の成分の割合が増加する傾向にあった。X線結晶構造解析の結果より、環の内部がかなり込み合っているリング状錯体の場合、強く発光することが分かった。立体障害によりビピリジン配位子と、リン配位子に含まれるフェニル基が、リングの外側を向く構造を取ると、分子内に弱い相互作用が生じ、これが原因で以上に述べた光物性の変化が生じたと考えられる。
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