研究概要 |
昨年度に引き続き以下の研究を行った。(1)直鎖型四座ホスフィンを用いた多核金属錯体の精密合成:昨年度合成法を確立した直鎖状四座ホスフィン配位子(dpmppm=bis{(diphenylphosphinomethyl)phenylphosphino}methaneを用い,Pt(I)及びPd(I)二核錯体との反応から[M_2(μ-dpmppm)_2](PF_6)_2の組成を持つ二核錯体(1:M=Pt,Pd)を合成し、金属-金属結合が強固に支持された詳細な構造をX線結晶解析及び種々の分光法により明らかにするとともに電気化学的性質について分析を行った。また、錯体1と11族金属種を反応させることにより、Pt_2Au_2,Pd_2Au_2,Pd_2Ag_2,Pd_2Cu_2の金属多核中心を有する錯体を合成した。これらの構造は用いる金属種によって大きく変化することが明らかとなった。また、dpmppmとd^8Pd(II),Pt(II)錯体を反応させると[MCl(dpmppm)]Xの組成を持つ単核錯体が生成し、特に[PdCl(dpmppm)Clは[Cp^*RhCl_2]_2と容易に反応し非対称RhPdRh三核骨格を有する[{Cp*RhCl_2}_2PdCl_2(dpmppm)]を与えることを明らかにした。これに対し、dpmppmとd^8Rh(I),Ir(I)錯体[Cp^*MCl_2]_2のみを反応させた場合、[(Cp^*MCl)_2dpmppm](PF_6)の組成を持つ二核錯体が生成する。このような2核錯体ではホスフィン配位子の不斉だけでなく金属上に中心不斉が発生するため複数の立体異性体が可能であるが、今回得られた化合物ではrac-M_2/meso-P_4の異性体が優位に存在することが明らかとなった。また、Rh(I)二核錯体はAg(OTf)と反応し、RhAgAgRh骨格をもつ四核錯体[(Cp^*RhL)_2(AgOTf)_2(dpmppm)_2](OTf)_4を生成する。このようにdpmppm配位子は様々な同種・異種金属多核骨格を支持しうることが明らかとなった。さらなる骨格拡張と反応性・物性の検討を進める予定である。(2)直鎖状白金クラスターを単位モジュールとした量子ユニット(分子ワイヤー)の創製:昨年度に引き続き直鎖状Pt_4,Pd_4骨格の開発について研究を進めると同時に、直鎖状Pt_3,Pt_2Pd,Pt_6,Pt_2Pd_2Pt_2の反応性や電子状態についても検討を行った。また、[RhCl(CO)_2]_2とdpmppmとの反応から、やや湾曲したRh(I)四核錯体[Rh_4Cl_3(CO)_4]^+が得られることを見出した。(3)直鎖型四座ホスフィンを用いた11族金属(Au,Ag,Cu)クラスターの合成と触媒反応の開発:11族の1価金属イオンを四座ホスフィンで架橋することにより様々な形体を持つクラスターを合成した。Au(I)を用いた場合、直鎖状Au_4,Au_8錯体のみならずループ状のAu_6錯体が得られその詳細について検討を行った。Ag(I)を用いた場合には{Ag_4(dpmppm)_2}^<4+>骨格を持つ四核錯体が得られ、多核中心のルイス酸性が高いことから有機物との反応に興味が持たれる。Cu(I)の場合には、合成に用いる溶媒によってCu_4錯体とCu_8錯体の作り分けが可能であることが明らかとなった。このような錯体の骨格拡張により11族金属の量子ユニット創成目指すとともに、多核金属中心の協同効果を利用した有機触媒反応の開発を目指し研究を進めた。
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