研究概要 |
本年度は次の研究を行った。(1)直鎖型四座ホスフィンを用いた直鎖状多核金属錯体の精密合成:平成18年度合成法を確立した直鎖状四座ホスフィン配位子(dpmppm=bis{(diphenylphosphinomethyl)phenylphosphino}-methaneを用い、[Pd_8(dpmppm)_4](BF_4)_4の組成を持つ8核錯体を合成しその構造解析に成功した。このクラスターは金属-金属結合で連結した低原子価Pd(O/I)クラスター分子として世界最長のものでその物性や反応性は興味深く今後の発展が大いに期待される。金属鎖の末端が配位不飽和であることからPd8核ユニットをビルディングブロックとした分子ワイヤーの創製にも応用が期待できる。また、[RhCl(CO)_2]_2とdpmppmとの反応から、やや湾曲したRh(I)四核錯体[Rh_4Cl_3(CO)_4(dpmppm)_2]^+が得られることを昨年度見出したが、本年度は類似錯体の合成やそれらの反応性についても検討を行い、カルボニル配位子の数やハロゲンや対イオンの種類によりRh4核の構造と電子状態が変化することを明らかにした。(2)直鎖型四座ホスフィンを用いた11族金属(Au,Ag,Cu)クラスターの合成:昨年度に引き続き11族の1価金属イオンを四座ホスフィンで架橋することにより様々な形体を持つクラスターを合成した。特に、Au(I),Ag(I),Cu(I)すべてを分子中に取り込んだ約2nmの直径を有する異種金属8核ナノループ[Au_4Ag_2Cu_2Cl_2(dpmppm)_4]^<4->の合成に成功し、その詳細な構造を明らかにするとともにBF_4やPF_6を2分子のループがカプセル化する挙動についても明らかにした。(3)異種金属多核錯体の合成と触媒設計:昨年度端緒を見出した非対称MPdM三核骨格を有する二元系及び三元系異種金属三核錯体[{Cp*MCl_2}_2PdCl_2(dpmppm)]及[{Cp*MCl_2}_2PdCl(dpmppm)](PF_6)(M=Ir,Rh)の合成法を確立し、詳細な構造と溶液中での挙動を明らかにした。特に、Rh(III)を2個有する錯体では還元反応において金属間の相互作用によると考えられる協同効果が見出された。今後、これら錯体の複数の金属により促進される有機触媒反応の開発を進める予定である。
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