研究課題/領域番号 |
18350035
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小寺 政人 同志社大学, 工学部, 教授 (00183806)
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研究分担者 |
船引 卓三 同志社大学, 研究開発推進機構, 客員フェロー (70026061)
水谷 義 同志社大学, 工学部, 教授 (40229696)
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キーワード | メタンモノオキシゲナーゼ / 二核鉄酵素 / O_2活性化 / パーオキソニ核鉄(III)中間体 / トリオキソニ核鉄(IV)錯体 |
研究概要 |
本研究は、メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)などの二核鉄酵素のO_2活性化過程に生じる酸化活性種の構造と反応性の解明を目的としており、6-hpa配位子を用いたトリオキソニ核鉄(IV)錯体の生成、分光学的性質、反応性に関する研究を行った。sMMOはO_2と反応してパーオキソニ核鉄(III)中間体を生成し、O-O結合の切断を経てオキソニ核鉄(IV)活性種Qを生じると推定されている。しかし、この活性種Qは非常に不安定で、構造や分光学的性質には不明な点が多い。そこで、類似の構造を持つオキソニ核鉄(IV)錯体の開発が期待されている。最近、オキソ単核鉄(IV)錯体の結晶構造、分光学的性質、反応性などが報告されたが、オキソニ核鉄(IV)錯体の研究は遅れている。ドナー性の高いポリアミド配位子のμ-オキソニ核鉄(IV)錯体の結晶構造が報告されているが、この錯体は酸化力がなく、活性種Qの性質を再現する機能モデルとはいえない。我々は、6-hpaのμ-オキソ-ジアクアニ核鉄(III)錯体1を触媒として用いてH_2O_2によるアルケンの効率的エポキシ化に成功した。従来の研究で反応中間体としてパーオキソニ核鉄(III)錯体2が検出され、酸化活性種としてトリオキソニ核鉄(IV)錯体の存在が示唆された。しかし、酸化活性種は分光学的に検出されなかった。本研究では、錯体1とH_2O_2の反応条件を最適化して酸化活性種の検出を試みた。具体的には、MeCN中-40℃において錯体1にEt_3Nの存在下2当量のH_2O_2を加えたところ、定量的にパーオキソ錯体2が生じた。錯体2は、その後直ちに640nm(ε160M^<-1>cm^<-1>)に弱い吸収を持つ新たな錯体3へと変化した。これにアルケンを加えると3の分解は加速され、エポキシドが生成した。3のESRスペクトルはサイレントであり、CSIMSスペクトルは{[Fe_2(O)_3(6-hpa)](ClO_4)}^+に相当するm/z865に主ピークを示した。これらの結果から、3は酸化活性種であるトリオキソニ核鉄(IV)錯体であると推定された。様々な基質と3の反応の速度論的研究から、チオアニソールでは擬一次速度定数は基質濃度の一次に比例し、アルケンの酸化速度はミカエリスーメンテン型の濃度依存性を示す事がわかった。後者は[3/アルケン]錯合体の生成を示唆している。アルケンと3の反応のESR測定では、アルケン添加直後にFe(III)Fe(IV)錯体に特徴的なシグナルが現れ、これが反応の進行に伴って減少した。これらの結果は、初期反応として3によるアルケンの1電子酸化が起り、[Fe(III)Fe(IV)錯体/アルケンのcation radical]が生じる推定機構と一致した。3は固体として単離された。XPS測定から鉄の2p軌道のbond energyは3で710.6eV、1で708.8であった。3は、1より1,8eV高い値を示す事から、鉄IV価の錯体であるといえる。本研究により、トリオキソニ核鉄(IV)錯体の生成が確認され、分光学的性質と反応性が明らかにされた事は重要である。
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