これまでの研究では3つのフェノキシド基をオルト位をメチレン炭素で直鎖状に連結した3座フェノキシド配位子を中心に取り扱ってきた。本年度は3つのフェノキシド基を1つのメチン炭素を介してオルト位で3脚型の連結した配位子[O_3]^<3->を補助配位子として用いたニオブーヒドリド錯体の合成を検討した。3脚型配位子の導入は2段階の反応で行った。最初にH_3[O_3]とNbCl_5をアセトニトリル中で反応させることでH[O_3]NbCl_3(CH_3CN)(1)を得た。錯体1では3つのフェノールの2つで脱プロトンがおこり、2座配位子として金属に配位している。残るひとつのフェノールの脱プロトンは錯体1とNEt_3を反応させることにより進行し、[O_3]配位子がfacial型で3座配位子として1つの金属中心に結合した錯体(NEt_3H){[O_3]NbCl_3}(2)が得られた。錯体2は[O_3]配位子のメチン炭素の水素の方向により2種の異性体が存在し、その混合物として得られる。メチン水素が中心金属の方向を向いたsyn錯体よりも中心金属の逆方向を向いたanti錯体が熱的に安定である。そのため、2種の異性体の混合物を加熱するとsyn錯体のanti錯体への異性化が進行し、anti錯体のみを単離することができる。このanti型錯体2をKBHEt_3を反応させるとヒドリド錯体[K(thf)_2]_2{[O_3]_2Nb_2(μ-H)_4}(3)が得られた。X線構造解析の結果、錯体3は2核錯体であり、4つのヒドリド配位子が2つのニオブ金属を架橋している。[O_3]配位子anti型構造を維持しており、3座配位子としてひとつの金属中心にfacial型で結合している。反応過程でヒドリド試薬の一部は還元剤として作用しており、金属中心はNb(V)からNb(IV)へと還元されている。
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