研究概要 |
複数の分子が弱く結合した分子複合体では,個々の構成分子の機能の和を超えた超分子応答機能が期待できる。本研究では,水中において高度な糖鎖識別機能を有する分子鋳型センサーの開発を目的とした。本年度は,フェニルボロン酸を修飾したシクロデキストリン(CyD)誘導体や様々なフェニルボロン酸誘導体と複雑な糖鎖をあらかじめ水中でエステル結合を形成させ,これにアミン官能基を有する水溶性ポリマーを加え,CyD錯体の固定化・架橋反応を全て水中で行うことによって,糖鎖の分子認識空間を持ったCyD/アミンポリマー複合体およびフェニルボロン酸/アミンポリマー複合体を設計するための詳細な条件検討を行った。同時に,糖応答機能を有するフェニルボロン酸型アゾプローブ/CyD複合体センサーについても研究を進めた。一般にフェニルボロン酸は,単糖類の中ではフラクトース選択性を示す。一方,生体内で重要な役割を果たしているグルコースは,ボロン酸が二点で結合できれば,その選択性が発現することが知られている。そこで,γ-CyD内でボロン酸型アゾプローブが二量体を形成する.ことで,糖に対しての二点認識機能発現を狙ったボロン酸型アゾプローブ(1,2)/CyD複合体センサーの設計を行った。異なるスペーサーを有するボロン酸型アゾプローブ1,2は,単独系では,糖に対して全く応答を示さない。また,1/γ-CyD複合体でも糖に対する応答は得られなかった。一方,2/γ-CyD複合体では,誘起円二色性(ICD)スペクトルにおいて,γ-CyDの包接構造変化によるスプリット型のスペクトルが,また,紫外・可視吸収スペクトルにおいても,ピーク極大波長の短波長シフトがグルコース存在下で観測された。これは,アゾプローブ2がγ-CyD空洞中でグルコースに選択的な二量体を形成したことを示している。1と比較して2は,アゾ基とフェニルボロン酸の間にスペーサーを導入したことによって,γ-CyD空洞内での二量体構造が安定になったためと考えられる。その結果,2/γ-CyD複合体は,動的包接能変化に基づいて,優れたグルコース応答選択性を示すことを明らかにした。
|